比婆荒神大神楽 庄原市東城町竹森
平成23年12月3日から4日にかけて、広島県庄原市東城町竹森地区で33年振りに「比婆荒神神楽(本山三宝荒神式年大神楽)」が行われた。小当屋(遊び当屋)と大当屋(神殿・舞当屋)が、それぞれ距離を隔てた民家に請けられていた。大神楽の本名は「岡田名本山三宝荒神」と呼ばれ、大当屋は竹森地区を代表する昔の庄屋宅である。細き雨が寒く降る中、小当屋と大当屋で湯立神事が始まった。湯笹で当屋全体を清めた後、各「名」の代表者による「荒神迎え」が行われた。「土公(ロックウ)遊び」が終わる頃、外の景色は刈田に降った雨溜まりが茜色に染まり、美しい田園風景を見せていた。小当屋での行事が終わり、軒下に飾られていた竜が外され、大当屋へ向かう「神殿移り」に入った。移動中の明かりは松明のみである。早めに大当屋へ移動して、待機していると荒神様と竜が入場してきた。「七座神事」「祝詞」「白蓋引き」「能舞」と明け方迄神楽舞が繰り広げられた。予定より1時間遅れで、朝7時頃から「竜押し」が始まった。「竜押し」は各「名」の代表者が竜を担ぐ。田の入口にて待ち受けた本山荒神勢の神職と問答を行った末、入口の注連縄を切り田の中へ入って行く。逃げる本山荒神勢の神職を竜が追いかけ、やがて神職を捕えて巻き付けてしまった。竜は再び大当屋の神殿に移された。「荒神納め」は初めて見る神懸かり神事でもあり、異次元の世界は迫力満点であった。残念ながら、撮影は禁止である。竜は神様と共に荒神様に送られ、背後にある木に巻きつけられた。「神がかり」で使用された布や御幣が、木の根元付近の地中に埋められた。3年後には「御戸開き」が行われ、この時に竜が燃やされ帰っていくと言う。地中に埋められたものはそれまでの竜のエサだとも言われているそうである。そしてさらに30年後に再び、荒神様を呼び起こす事となるのだ。朝食休憩後、大当屋の囲炉裏を囲んで、後神楽と呼ばれる「へっつい遊び」が行われた。「手草の段」では2人の年神様が笹と鈴を持って舞う。その後の老翁が年神様へ神饌を供える場面は、面白可笑しい。 「土公祭文」の後 「宝廻し」が始まる。子供も入って円座を組み、盆を廻していく。その際、順に数を加算して勘定を重ね、勘定しきれなくなったらバンザイとなる。とても和やかな光景で、五穀豊穣を願うものだそうだ。 「灰神楽」は、囲炉裏の灰の中に餅を入れ、杓子と摺木で2人の代表者が取り合うもので、出た餅を箒で掃き戻す者も加わり、部屋中は灰が立ち込めて騒然となる。ちなみに、摺木は男根、杓子は女性を表して子孫繁栄を願うものである。最後は「恵比寿の船遊び」で幕を閉じる。伊勢音頭を歌いながら、神楽師達が代表者を神殿迄運んで行き、神主が扇をはたいてコケコッコーと鶏の鳴き声の真似をする。時間は、10時30分を過ぎていた。昔の人々は、地域の絆を深め先祖を大切にして信仰してきた。そして、いろいろな遊びを取り入れながら神楽や祭りを演出し、神様と一緒に楽しんできた。この地域では、その伝統が今も脈々と引き継がれている。